東京高等裁判所 昭和24年(新を)475号 判決 1950年1月26日
控訴人 被告人 林三郎
弁護人 福田力之助
検察官 小泉輝三関与
主文
本件控訴はこれを棄却する。
当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人福田力之助作成名義控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。
論旨第一点について。
原判決が沒収した物件は搜査官が押収したもので裁判所において押収したものでないことは所論の通りである。しかしながら刑法第十九条の沒収の条件には特に裁判所で押収したものに限る旨の制限はないから搜査官が押収したものでも右刑法第十九条の条件に適合するものはこれを沒收するに何等差支はないのである。又物件自体について証拠調をしてなくても当該物件が刑法第十九条により沒收すべきものであるかどうかの取調がしてあり、しかうして沒収すべきものであることが明らかであればこれを沒收しても差支ないのである。本件記録を精査すると原審公判廷において大蔵事務官永長博同増田実作成の犯則事件報告書及び差押目録が証拠として取調べられており、これによると差押えられた本件物件は総て被告人が原判示犯行に使用したもので被告人の所有であることが判るから原審は本件物件を沒收したについて手続上も実体上も何等違法はないものというべきである。論旨は理由がない。
(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)
控訴趣意書
第一点原判決は主文で「押収物の燒酎九升醪四斗五升その容器一石樽一個四斗樽三、八斗樽一、一斗樽一、甕四個ブリキ罐二個ビア樽三個ドラム罐一個一升壜五本は之を沒收する」旨言渡し刑法第十九条を適用した。然し乍ら(一)之等の物件は裁判所が押収手続をしたものではない。(二)公判調書を調査しても証拠調がなされた跡がない。(三)これ等の物件全部が刑法第十九条の要件を備えているかどうか何等の調査がなされていない。此の物件の中には明かに刑法第十九条第一項各号に該当しないもの(例えば一升壜五本ブリキ罐二個等)がある。従つて原判決には理由不備の違法があるから之を破棄すべきものと信ずる。